民主主義・信頼・共生 / 孤独・孤立
孤独・孤立
つながりの希薄化により、孤独・孤立が健康や生活、社会の信頼基盤に影響している。
課題は「つながりの量」ではなく、孤立した人が支援に早くつながれるかであり、本人の選択を尊重しつつ早期発見と居場所を重層的に整える。
30秒要約
- 孤独感が「しばしば・常にある」人は4.3%(令和6年調査)、何らかの孤独感がある人は約4割で、調査開始以降ほぼ横ばい。
- 2023年に孤独・孤立対策推進法が成立(2024年4月施行)し、国・地方の官民連携プラットフォームを軸に対策が制度化された。
- 課題は「つながりの量」より「孤立しても支援に早くつながれるか」。当事者の声を反映した居場所・アウトリーチの実装と効果測定が次の論点。
- いま何が問題か
- 孤独・孤立対策推進法(2024年施行)を基盤に、官民連携プラットフォームで居場所・相談・アウトリーチを実装する段階。
- なぜ今か
- 全国実態調査が制度化され、約4割が何らかの孤独感を抱える実態と横ばい傾向が可視化された。
- 最大の制約
- 縦割り・財源・人材不足に加え、介入効果の定量評価がまだ乏しい。
- 政策レバー
- 居場所整備、早期発見アウトリーチ・相談体制、官民連携プラットフォーム、当事者参画の制度化
- 最重要KPI
- 孤独感「しばしば・常にある」割合(令和6年4.3%)、相談・アウトリーチで支援につないだ件数。
- 政治的争点
- 孤独は私的領域であり行政介入は『おせっかい』かどうか。本人の選択尊重と早期発見の公的関与のバランスが争点。
課題の定義(扱う/扱わない)
扱う:望まないのに人とのつながりを持てない「孤独感」(主観)と、社会との接点が乏しい「孤立」(客観的状態)の双方。これらが健康・生活・社会参加、ひいては社会の支え合い・信頼基盤に及ぼす影響と、その予防・支援の仕組みを扱う。
扱わない:自ら選んだ単独行動や「ひとりの時間」そのものは問題とみなさない。また、自殺対策・貧困・介護・ひきこもり等の各論は関連課題として参照するに留め、本カードはそれらを横断する「つながり」の側面に焦点を当てる。
何が起きているか(データ)
- 内閣府の全国調査(令和6年実施)では、孤独感が「しばしばある・常にある」人が4.3%、「時々ある」15.4%、「たまにある」19.6%で、合計約4割が何らかの孤独感を抱えていた(内閣府, 2025)。
- 前年の令和5年実施調査では「しばしばある・常にある」4.8%、「時々ある」14.8%、「たまにある」19.7%で、令和6年と「大きな差異はみられない」(内閣府, 2024/2025)。調査開始(令和3年12月)以降、おおむね横ばいで推移している。
- 令和5年調査(有効回答11,141件、有効回答率55.7%)では、孤独感は20〜50歳代で相対的に高く、男性5.3%・女性4.2%だった。同居していない家族・友人と直接会って話すことが「全くない」人は9.2%、社会活動に「特に参加していない」人は51.8%だった(内閣府, 2024)。
- 政府は2023年5月に孤独・孤立対策推進法を成立(6月公布、2024年2月施行)させ、内閣官房(現・内閣府)の担当部署を司令塔に総合的対策を法定化した(内閣官房, 2023)。
なぜ先送りされてきたか
孤独・孤立は「個人の心の問題」とみなされやすく、当事者が声を上げにくい。実態が統計に表れにくく、特定の窓口・予算に結びつきにくかったため、長く政策課題として位置づけられてこなかった。政府初の全国実態調査が行われたのは令和3年12月(公表は令和4年4月)と新しく、エビデンスの蓄積自体が始まったばかりである(内閣府, 2024)。
よくある誤解
- 誤解:孤独・孤立は高齢者だけの問題だ。 → 事実:令和5年調査では孤独感は20〜50歳代で相対的に高く、年齢を問わない課題である(内閣府, 2024)。
- 誤解:人とのつながりの「量」を増やせば解決する。 → 事実:本カードの解決の方向性が示すとおり、量の増加自体を目的化せず、孤立した人が支援に早くつながれるかが要点である。
- 誤解:孤独感は近年急増している。 → 事実:内閣府調査では調査開始以降おおむね横ばいで、令和5年と令和6年に「大きな差異はみられない」(内閣府, 2024/2025)。
原因構造
- 世帯・人口構造の変化:単身世帯・単身高齢者の増加、未婚化、家族規模の縮小により、家庭内のつながりが細る。
- 地域・職場の縁の希薄化:地縁組織の弱体化、転職・転居の流動化、非正規・テレワークの拡大で、所属コミュニティが減少。
- きっかけの喪失が連鎖:失業・離別・病気・介護・退職などのライフイベントが社会的接点を一度に失わせ、回復のきっかけも得にくい。
- 支援の構造的ミスマッチ:声を上げにくい当事者と、申請主義の支援制度の間に距離があり、もっとも支援が必要な層に届きにくい。
誰が、どう困るか(影響)
単身高齢者、ひとり親、若年層、無業・困窮世帯、ケアを担う人(ヤングケアラー含む)、疾病・障害で外出が難しい人、社会との接点を失った人などが影響を受ける。孤独感は20〜50歳代でも高く(内閣府, 2024)、高齢者だけの問題ではない。影響は健康悪化、就労・生活の不安定化、家計や消費の縮小、孤立死のリスク増大など多面的に及ぶ。
放置するとどうなるか(時間軸)
- 今すぐ〜数年:相談につながらない人の健康悪化・経済的困窮が進み、自殺・孤立死のリスクが高まる。
- 5〜10年:単身世帯のさらなる増加に支援体制が追いつかず、孤立死・セルフネグレクトが地域課題として顕在化。
- 10年以上:地域の支え合い・互助機能が弱り、行政の公的支援への依存と負担が増大。社会全体の信頼・参加の基盤(社会関係資本)が痩せる。
解決の方向性
「つながりの量」を増やすこと自体を目的化せず、(1)望む人が無理なくつながれる場(居場所)の整備、(2)孤立した人を早期に発見し支援につなぐアウトリーチ・相談体制、(3)当事者の声を施策に反映する仕組み、を重層的に組み合わせる。国・地方の官民連携プラットフォームを基盤に、NPO・企業・地域の取組をつなぎ、効果を測りながら改善する。プライバシーと「おせっかい」の線引きに配慮し、本人の選択を尊重することが前提となる。
政策選択肢の比較
主体別アクション
政府
- レバー:推進法に基づく基本方針・交付金、全国調査、官民連携プラットフォーム運営。
- 変えるもの:相談窓口の集約・24時間化、自治体への財政・人材支援、当事者参画の制度化。
- 制約:縦割り、財源、効果検証の難しさ。
- 成果指標:相談につながった人の割合、調査の継続実施と公表。
自治体
- レバー:地方版プラットフォーム、見守り・居場所事業、社協・民生委員との連携。
- 変えるもの:分野横断の支援調整(断らない相談)、アウトリーチ人員の確保。
- 制約:小規模自治体の人材・予算不足。
- 成果指標:アウトリーチで把握・支援につないだ件数、居場所の利用者数。
企業
- レバー:職場の相談体制(EAP等)、地域連携事業、雇用を通じた包摂。
- 変えるもの:単身・テレワーク従業員の孤立予防、退職後の接点づくり。
- 制約:費用対効果の見えにくさ、プライバシー配慮。
- 成果指標:相談利用率、復職・定着率。
NPO・地域
- レバー:こども食堂・居場所・ピアサポート・伴走支援、当事者の声の集約。
- 変えるもの:制度の隙間を埋める受け皿、官民をつなぐハブ機能。
- 制約:運営資金・担い手の不安定さ。
- 成果指標:継続利用者数、行政・専門機関への接続件数。
個人・家庭
- レバー:身近な声かけ、地域・趣味活動への参加、支援情報の共有。
- 変えるもの:「弱音を言える関係」の確保、必要時に窓口を使う行動。
- 制約:本人の意思・負担への配慮(押し付けない)。
- 成果指標:—(個人単位の指標は設定しない。本人の選択を尊重)。
メディア・研究者
- レバー:実態の可視化、効果のある介入の検証、当事者の声の発信。
- 変えるもの:スティグマの低減、エビデンスに基づく政策提言。
- 制約:センセーショナル化・自己責任論への回収を避ける必要。
- 成果指標:査読研究・公的データの蓄積、介入効果の検証件数。
実行プラン(深掘り)
短期(〜2年)
| 打ち手 | 担い手 | 手段 | 里程標・指標 |
|---|---|---|---|
| 官民連携プラットフォームを通じた居場所・相談・アウトリーチの実装を拡大 | 内閣府・自治体・NPO | 孤独・孤立対策推進法に基づく基本方針・交付金、国・地方の官民連携プラットフォーム | 相談につながった人の割合、アウトリーチで把握・支援につないだ件数 |
| 全国実態調査を継続実施し、結果を年齢・世帯類型・地域別に分解して公表 | 内閣府 | 孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(年1回) | 孤独感「しばしば・常にある」割合(令和6年4.3%)の継続把握と公表 |
| 職場の相談体制と単身・テレワーク従業員の孤立予防に着手 | 企業 | 職場の相談体制(EAP等)、地域連携事業 | 相談利用率、退職後の接点づくりの実施状況 |
中期(3〜5年)
| 打ち手 | 担い手 | 手段 | 里程標・指標 |
|---|---|---|---|
| 断らない相談・分野横断の支援調整とアウトリーチ人員の確保 | 自治体(社協・民生委員と連携) | 地方版プラットフォーム、見守り・居場所事業、国の財政・人材支援 | アウトリーチで支援につないだ件数、居場所の利用者数 |
| 当事者参画を制度化し、介入効果の定量評価の手法を確立 | 内閣府・研究者・NPO | 当事者の声の集約、査読研究・公的データの蓄積 | 介入効果の検証件数、当事者参画の制度化状況 |
| 最も孤立した層への支援到達率を測る指標を整備 | 内閣府・自治体 | 年次調査での分解、支援到達率の地域・世帯別把握 | 年齢・世帯類型・地域別の支援到達率と孤独感格差 |
長期(5年〜)
| 打ち手 | 担い手 | 手段 | 里程標・指標 |
|---|---|---|---|
| 重層的なセーフティネットを地域に定着させ、支援到達の格差を縮小 | 政府・自治体・NPO・地域 | 官民連携プラットフォームを基盤とした居場所・アウトリーチ・相談の重層化 | 年齢・世帯・地域別の孤独感格差の縮小、孤立死の件数 |
| 担い手・資金の持続可能なモデルを確立し燃え尽きを抑制 | 政府・自治体・NPO・企業 | 雇用を通じた包摂、安定した運営資金・担い手の確保 | 支援者の負担・離職の抑制、継続利用者数・行政接続件数 |
政策争点
- 公的関与の範囲:孤独は私的領域として尊重すべきか、孤立死・健康悪化の社会的コストゆえに行政が踏み込むべきか。
- 「量」か「到達」か:つながりの場を増やすことを重視するか、最も孤立した人への到達(アウトリーチ)を優先するか。
- 財源配分:効果が定量的に測りにくい施策に、限られた福祉予算をどこまで投じるべきか。
- 公平性:支援が届きやすい層と届かない層の格差を、どう設計で縮めるか。
- 担い手の持続性:NPO・支援者に依存する仕組みが、資金・人材の不安定さや燃え尽きをどう避けるか。
反対論・トレードオフ
- 最も強い反対論:「孤独は私的領域であり、行政の介入は『おせっかい』やプライバシー侵害になる。支援の押し付けはかえって本人を追い詰める」。
- 応答:本人の選択を尊重し、つながりを「望む人」に届ける設計を前提とする。介入は見守り・相談の選択肢を増やすに留め、強制しない。一方で孤立死や健康悪化など社会的コストが大きい領域では、早期発見の仕組みに公的関与の正当性がある。
- その他の論点:財源(限られた福祉予算の配分)、公平性(届きやすい人と届かない人の格差)、実現可能性(小規模自治体の人材不足)、副作用(支援者側の負担・燃え尽き)。効果の測りにくい施策に予算を投じる是非も継続的な検証が必要。
失敗のシナリオ(プレモーテム)
対策を講じてもなお日本が失敗するとすれば、以下のような経路があり得る(いずれも本文既出の構造・データから導いた想定)。
- 制度はできたが現場が動かない:孤独・孤立対策推進法(2024年施行)と官民連携プラットフォームという「枠組み」は整ったが、地方版が連携の場にとどまり実際の支援接続が伴わない、という失敗があり得る。OptionsTableでもプラットフォームの副作用として「連携の枠組みにとどまり実効が見えにくい」と既出。
- 一律施策で地域差を無視する:国の交付金や標準メニューを一律展開した結果、人材・予算の乏しい小規模自治体ではアウトリーチや断らない相談が回らず、地域間で支援到達率の格差が広がる、という失敗があり得る(制約として「小規模自治体の人材・予算不足」が既出)。
- 数値目標だけ達成し実質が伴わない:プラットフォーム参画団体数(例:大阪府168団体)や居場所の数といった「量」のKPIは伸びるが、孤独感「しばしば・常にある」割合(令和6年4.3%)は横ばいのまま動かず、最も孤立した層に届かない、という失敗があり得る。
- 届きやすい層に偏り根因を放置する:居場所整備が「届きやすい層」に偏り、声を上げにくい当事者・申請主義との距離という構造的ミスマッチ(原因構造で既出)が温存され、最も支援が必要な層に届かない対症療法に終わる、という失敗があり得る。
- 担い手が燃え尽き持続しない:NPO・支援者への依存が続き、運営資金・担い手の不安定さと支援者の負担・燃え尽き(副作用指標として既出)が解消されないまま、立ち上げた居場所・伴走支援が数年で縮小・撤退する、という失敗があり得る。
KPI
- 結果指標:孤独感「しばしば・常にある」の割合(令和6年4.3%)、孤立死の件数。更新頻度:全国調査は原則年1回。
- 中間指標:相談につながった人の割合、アウトリーチで把握・接続した件数、居場所の数と利用者数。更新頻度:年次。
- 副作用指標:支援者の負担・離職、誤った介入による苦情。更新頻度:随時。
- 公平性指標:年齢・世帯類型・地域別の孤独感格差、支援到達率の偏り。更新頻度:年次調査で分解。
未解決の問い
- 居場所やアウトリーチは「孤独感を実際に下げたか」——国内の介入効果の定量評価はまだ乏しく、検証手法の確立が課題(内閣府の年次調査・査読研究の蓄積を追う)。
- 最も孤立した層に支援が届いているか——支援到達率を年齢・世帯類型・地域別に分解する指標が未整備。
- 英国の「社会的処方」のような他国の手法は日本でどこまで有効か(英国政府, 2018 を参照点に比較検証)。
- 地方版プラットフォームの参画団体数(例:大阪府で168団体/2026年5月時点)は、実際の支援接続や成果にどうつながっているか。
- 支援者側の負担・燃え尽きを抑える持続可能な担い手・資金モデルはどう設計できるか。
すでにある良い事例
- 国の官民連携プラットフォーム(内閣府):2022年2月設置。NPO等の支援組織間連携と官民連携を促進し、全国的な普及・情報共有・相互啓発を行う(内閣府, 2022)。推進法の制度的基盤となっている。
- 大阪府 公民連携プラットフォーム:民間企業・NPO等との連携促進を目的に設置され、2026年5月31日時点で168団体が参画。府・国の情報提供や団体間ネットワーク構築を支援している(大阪府, 2026)。地方版の運用例。
- 英国の孤独戦略(海外比較):英国は2018年1月に閣僚に孤独対策を担わせ(通称「孤独担当大臣」)、同年10月に政府として孤独に関する戦略「A connected society」を公表。複数省庁にまたがる対策や、医師が患者を地域活動につなぐ「社会的処方」を盛り込んだ(英国政府, 2018)。日本の制度設計の参照点。
- 限界・要追記:これら基盤・連携の枠組みに対し、「孤独感を実際に下げたか」という介入効果の定量評価は国内ではまだ蓄積が乏しい。個別NPO(こども食堂・居場所等)の成果数値は公式に確認できた範囲が限られ、要追記。
10年後の望ましい状態
望む人が無理なくつながりを持て、孤立しても支援に早くつながれる重層的なセーフティネットが地域にある。孤独・孤立が「個人の責任」ではなく社会で支える課題として共有され、当事者の声が施策に反映される。効果のある介入がエビデンスとともに蓄積され、孤独感の格差(年齢・世帯・地域)が縮小している。
詳細・根拠を見る(出典・関連課題・更新履歴)
主要データ・出典
- 孤独・孤立対策推進法 — 内閣官房 (2023)
- 孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年実施) — 内閣府 (2024)
- 孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年実施) — 内閣府 (2025) 更新で変動しうる数値 最終確認 2026-06
- 孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム — 内閣府 (2022)
- 大阪府孤独・孤立対策公民連携プラットフォーム — 大阪府 (2026) 更新で変動しうる数値 最終確認 2026-06
- A connected society: a strategy for tackling loneliness — 英国政府(DCMS) (2018)
更新履歴
最終確認日: 2026-06-09 / 次回確認予定: 2026-12
このページを引用
japan-todo「孤独・孤立」最終確認 2026-06-09, https://fladdict.github.io/japan-todo/issues/trust/loneliness-isolation